研究概要 |
スピンホール効果により生じるシグナル(電圧)を大きくするためには、対象とする物質の厚さを薄くすることが有効である。21年度は重い電子系の超薄膜化を目的として希土類金属間化合物の人工超格子の成長を行った。分子線エピタキシー(MBE)法によりf電子を持つCeIn_3とf電子を持たないLaIn_3を繰り返し成長し、希土類金属間化合物におけるエピタキシャル成長と人工超格子の作製に初めて成功した(Science 327, 980(2010))。この超格子により、重い電子を2次元空間に閉じ込め、量子臨界点に到達し、バルクよりも有効質量を大きくすることに成功した。この成果は強く相互作用することにより重くなった電子を狭い空間に閉じこめることで、自然界には存在しない2次元の重い電子状態を実現し、強相関電子の新しい舞台を提供するものである。これはまた2次元にある重い電子の示すSHEの研究を可能にするもので、重要な意義を持つものである。 Au、Agなどの電気伝導度の高い貴金属中に希土類元素を希釈ドープした系において外因的機構による巨大なSHEが発現することを理論的に明らかにした。AgにTmをドープした系についてMBE法により薄膜化することに成功した。この系においてスピンホール効果と密接な関係のある大きな異常ホール効果が発現することを発見した。 SHE測定のための素子化については電子線リソグラフィー法による素子構造の設計とSHE検出のための薄膜の細線化を実施した。希土類系のスピンホール効果測定の準備としてすでに大きなスピンホール効果が報告されているPtについてPt/Cu/パーマロイの素子構造を作製し、逆スピンホール効果の測定に成功した。22年度に実施予定の重い電子系におけるSHE測定のための準備を完了することができた。
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