研究概要 |
本研究では,イオン性物質である氷やイオン結晶お王び炭素系物質表面における水素分子の吸着状態を詳細に明らかにするとをもに,水素分子オルトーパラ転換機構の解明をめざしている.特にアモルファス氷やカーボンナノチューブに存在する細孔に焦点を当てて研究を進めている.ナノサイズの細孔内では,分子の回転運動が制限を受け,さらに電気双極子場の影響で強い四重極相互作用が働く. 本年度は,まず前年度に行ったアモルファス氷上での水素のオルトーパラ転換時間測定実験の高精度化を行い,H2分子の転換時間が370(+340,-140)s,D2の転換時間1220(+2980,-580)sであることを明らかにした.さらに,転換機構として,氷表面の電場効果を考慮した理論モデルの構築を進めた.また,イオン結晶試料としてNaCl蒸着膜への水素分子吸着の実験を行い,赤外吸収分光を用いて水素分子の伸縮振動に起因する吸収ピークを観測した.水素分子は赤外不活性であるが,イオン結晶表面の電場により誘導双極子が誘起され,これにより赤外活性になったと考えられる.さらに炭素ナノチューブへの水素分子吸着について極低温熱脱離分光を用いて調べた.窒素分子との共吸着効果を調べることで,ナノチューブグルーブサイトとナノチューブ内側サイトへの吸着を弁別できることを示した.水素分子の内部状態を観測する実験手法であるレーザー誘起蛍光法の圧力依存性を調べ,蛍光強度と蛍光寿命が分子の回転状態に依存することを見いだした.
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