本研究の目的は、光電子波束干渉によるアト秒軟X線パルスの計測を行うことである。アト秒科学の発展に大きく貢献することを目標とする。本年度の目標は以下の2点であった。1)アト秒パルス発生のための高強度キャリアーエンヴェロープ位相固定数サイクルレーザーパルスの発生、2)アト秒計測をおこなうためには、角度分解光電子分光を行う必要がある。そのための準備を行うことである。 1) は以前に達成したが中空ファイバー用チャンバーが不安定なため応用まで行き着かなかった。今回、より安定なチャンバーを開発してレーザー光の安定化をはかった。新たにチャンバーを試作し、中空ファイバーをより太いものに交換した。その結果、数サイクルレーザーパルスを以前より安定に発生できた。これらの成果を論文としてまとめ公表した。 2) は、エネルギー及び角度分解能の高い半球型光電子分光器を導入する予定であったが、角度分解可能な飛行時間型の光電子分光器がドイツの会社で開発されたことを知り、飛行時間型光電子分光器を導入した。納期が想定以上に遅くなったため、来年に光電子分光器の立ち上げを行う予定である。また、光電子分光器を装着し、現行の高次高調波発生用チャンバーと接続するための真空チャンバー、高調波スペクトルを光学的に測定するための分光器を用意した。 更に、今年度は、アト秒パルスの応用を目指した研究にも着手した。アト秒パルスによる極端紫外・軟X線領域における非線形光学を目指す。ヘリウム原子における二電子励起状態への高次高調波による二光子吸収スペクトルを京都大学の中嶋准教授が計算している。我々の実験結果と比較したところ、かなりよく説明できることがわかった。
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