研究概要 |
昨年度,現実のシステムにおいて正味のエネルギー利得を得るという観点から,正味のエネルギー削減率と制御利得という2つの評価指標を導入した.本年度は,その評価指標を既存の制御則に適用し,フィードバック制御とプレディターミッド制御は同程度の制御効果が得られる一方,制御利得の観点ではプレディターミンド制御は一般に大きく劣ることを示した(Kasagi et al.,2009). フィードバック制御においては,昨年度までに壁近傍のレイノルズ応力の不変量に着目し,壁面近傍のスパン方向速度の減衰が摩擦抵抗低減に有効であることを示し,より現実的な制御則を目指して,壁面流れ方向せん断応力のみを制御を開発した. 本年度は,レイノルズ数依存性について調査し,本制御則は,低-中レイノルズ数域において,高い制御効果を有することを示した.(Frohnapfel et al.,2009) プレディターミンド制御においては,昨年度までに成果として,時間的,及び空間的な周期を持つスパン方向速度擾乱が壁面摩擦抵抗低減に及ぼす影響を調査し,時間的,空間的制御のいずれの場合においても摩擦抵抗低減に関して,最適な周期,及び波長が存在することを示し,両者は壁面近傍の準秩序構造の対流速度を考慮すると,ほぼ同等の時間スケールに対応すること,また空間的制御の方が,より少ない投入エネルギーで大きな摩擦抵抗低減が得られることを示した.本年度は,MEMS技術を用いて,多数の小型プラズマ・アクチュエータを製作し,アクチュエータ群により制御壁を敷き詰めることにより,上述の空間周期制御入力を模擬し,その制御効果の実験的検証を試みた.その結果,数値計算で仮定された制御入力と同等の入力を流体に付与できることを示した.その一方,単体アクチュエータで見られたアクチュエータ近傍での吹き出し,吸い込みが,複数のアクチュエータ上においても確認され,その効果のために摩擦抵抗低減を実証するまでには至らなかった.今後は,単一アクチュエータが誘起する体積力を正確に見積もると共に,それに基づいた複数のアクチュエータの空間配置の最適化を行う必要がある.単一アクチュエータの性能予測については,今年度,アクチュエータ周りのプラズマ反応/拡散を考慮した数値計算スキームを確立し,流体に加わる体積力を見積もると共に,それをナヴィエ・ストークス方程式に加えることで,誘起流速を見積もった.その結果,本数理モデルにより,単一のアクチュエータ性能を定量的に予測できることが示された(Okouti et al,2009).今後は,上述のモデルを複数のアクチュエータ群に適用することで,アクチュエータ群の空間配置の設計に関して,有用な情報が得られると考えられる.
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