研究概要 |
運動量とエネルギーの輸送方程式,境界条件に立ち返り,摩擦と伝熱の非相似性を生み出す因子の整理を行った.その結果,非相似制御は,平均式と変動式に基づくものに分類できることを示した(Kasagi et al.,2010).平均式に基づく制御では,壁面摩擦,及び壁面熱流束に対するレイノルズ応力,乱流熱流束の寄与を導出した.このアプローチは,運動量と温度場の平均方程式に有意な差がある時に有効であることを示した.また,平均式の相似性が高い場合においても,変動式における非相似因子を利用することで,非相似制御が可能であることも実証した.その中でも,本年度はベクトル量とスカラー量の本質的な違いに注目した制御を試みた.具体的には,速度場は連続の式の制約がある一方,温度・濃度場には上述の制約がないという点に着目した.乱流の摩擦と伝熱に対する寄与を表す重み付きレイノルズ応力と重み付き乱流熱流束の差をコスト関数として定義し,準最適制御理論を適用することで制御入力の最適化を行った(Hasegawa,Kasagi,2010).その結果,平均式が同一となる系においても,バルク流速の596程度の壁面吹き出し吸い込みにより,伝熱が非制御時の凡そ3倍になる一方摩擦は2倍程度に留まることを示した.また,最適化された制御入力は主流方向進行波の特性を持つことが分かった.この結果を基に,流体情報を必要としないプレディターミンド制御則を提案し,その制御効果を実証した.上記の結果は、運動量とエネルギーの輸送方程式が相似に近い場合においても,有意な非相似制御の可能性を示すものである. 摩擦抵抗低減制御では,昨年提案されたフィードバック制御則において,センサー,アクチュエータの有限の寸法や周波数特性を考慮した際,制御効果に与える影響に関して系統的な調査を行った(Frohnapfel et al.,2010).また,プレディターミンド制御の代表例であるスパン方向振動制御に関して,壁面振動の位相に応じた条件付き抽出をすることによって,各位相における乱流構造の変化を明らかにし,最適周期の物理的説明を行った(Yakeno et al.2010).また,昨年度より,主流方向進行波状に吹き出し吸い込みを行うことで摩擦抵抗低減が可能であることを明らかにしてきたが,本年度は壁面を変形させることによって、同等の効果を得る試みも行われ,完全発達チャネル乱流場において,小さい壁面振幅において乱流場の再層流化が確認された.また,大きな振幅では,層流状態と乱流状態が交互に繰り返すことが確認された(中西ら,2010).また,空間発達乱流境界層に対して,吹き出し吸い込みを与えることにより摩擦抵抗に与える影響を調査し,基本的には完全発達流と同様の制御効果が得られることが分かった(Kametani et al.,2010). 数値計算で得られた制御効果を実証をするため,マイクロ・プラズマ・アクチュエータの開発を進めた.昨年度までにMEMS技術を用いた製作プロセスを確立した.本年度は多数のアクチュエータを制御壁面に配置することにより,数値計算で得られたスパン方向振動制御入力を模擬し,その制御効果の検証を試みた.定性的には,制御壁面近傍にスパン方向誘起速度の生成が確認されたものの,個々のアクチュエータ近傍で壁鉛直方向速度が存在するために,一様なスパン方向速度分布が得られず,摩擦抵抗低減を実証するまでには至らなかった.今後,アクチュエータの配置を最適化し,より空間的に一様な誘起速度を実現することによって抵抗低減の実証が望まれる
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