研究概要 |
熱ふく射(thermal radiation)は,物質における荷電粒子の熱振動に起因する電磁波であり,工業的にも得やすい身近なエネルギーであるが,そのままでは,Planck分布の及ぶ広い波長域に分散し,また,指向性が弱いぼんやりしたふく射である.そのため,レーザーの場合のように,特定の波長と方向にそのエネルギーを集中して工学的な機能を発揮させるには有効でないことが多かった.いま,この点を克服し,特定の波長帯域のふく射が強調されるスペクトル機能性をもつ熱ふく射を得るための技術が求められている. 本研究は,スペクトル機能性ふく射の制御技術開発をめざす熱工学の研究の展開を図るものである.電磁波動論・分光学・固体物性論・伝熱工学を基礎として分光熱工学の実験・理論研究を行い,熱工学のシステム的な視野をもって,エネルギー工学と生活環境工学のために有効なハードシステムの実現をめざす. 平成21年度は,昨年度(初年度)の研究成果を基礎として以下の研究成果を得た.すなわち,牧野は若林・松本と連携し,(1)昨年度に引き続き広波長域高速ふく射スペクトル測定装置を垂直入射鏡面反射率・垂直入射半球反射率・垂直放射率の3種のスペクトルを同時連続測定できるよう高性能化を進め,(2)室温の表面の全半球放射率測定器を開発し,(3)生活空間を構成するさまざまの表面の垂直入射吸収率スペクトルと全半球放射率を測定した.花村は(1)赤外光起電力電池の作製プロセスを改善し,(2)近接場光によるナノギャップ発電に適するGsSb電池を試作した.山田は人の皮膚の散乱位相関数を測定した.宮崎はマイクロ球の自己組織化微細構造の非周期性とその赤外ふく射性質を実験的に明らかにした.また,2010年3月に京都大学において研究報告会を行った.
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