バイオ人工肝臓の実現には、分子・細胞レベルにおけるマイクロナノ物質移動現象を明らかにして、それらを工学的に統合したマクロな性能評価と改善が必須となる。同時に肝細胞の酸素消費が大きいため、肝細胞への酸素供給も必要である。そこで、本研究では、小型肝細胞を中心に再構築されたバイオ人工肝臓において、有用物質と不要物質の輸送、酸素供給プロセスを明らかにし、最終的に生体内移植のための再生肝臓と体外使用の人工肝臓の実現を目指す。バイオ人工肝臓の物質移動の評価・改善には、発生生物学(組織再構築)、分子生物学(有用物質の細胞内産生)と移動現象論(細胞外における拡散対流による輸送)が連携して、バイオトランスポートの新しい工学コンセプトの創生が必要である。本研究は、新しい学際領域「バイオトランスポート」のコンセプトの創生を図り、新しい医療技術の発展に貢献する事を目標にしている。 昨年度の成果に基づき、以下の点に関してさらなる検討を行う。 (1)肝細胞多重積層化に伴う物質移動機能の評価と促進方法の検討 引き続き、肝細胞の2重積層化による機能促進のメカニズムを検討する。 (2)分子・細胞レベルのマイクロナノ物質移動過程の微視的計測と分子生物学的検討 再構築された肝細胞多重積層におけるマイクロナノ物質移動のプロセスを、抗体や蛍光マーカーを用い、共焦点レーザー顕微鏡、タイムラプス蛍光顕微鏡や全反射顕微鏡によって、アルブミンなどの動的な変化を3次元的に捉えて、物質移動を評価し、その改善方法に関して検討する。これも昨年度の継続である。 (3)毛細血管ネットワーク形成の工夫、毛細血管と肝細胞の共培養系 肝細胞の集合体の中にも血管網を形成させる。そのためには、肝細胞と血管内皮細胞との共培養系の確立が必須である。 (4)内皮細胞の物質移動特性 類洞内皮細胞では、せん断応力の大きさによってアルブミン分泌が大きく変化する事が予想され、肝細胞内での産生と血流中への放出を類洞内皮細胞が精密に制御している事を明らかにする必要がある。これも昨年度からの継続である。 (5)胆管ネットワークと小型肝細胞の共培養モデルの構築 小型肝細胞による毛細胆管と胆管ネットワークの融合の実現のために共培養モデルを構築する。
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