二軸引っ張りひずみをもつバルクSi MOSFETの移動度において、特に、表面ラフネス散乱とクーロン散乱によって決まる移動度成分に関して、ひずみ量を系統的に変化させて、ひずみの影響とその物理的機構を調べた。結果として、以下のことが明らかとなった。 (1)表面ラフネス散乱による移動度 ・MOS界面の形状をTEM分析により定量的に決定し、表面ラフネス散乱の散乱強度を実験的に決定する新しい手法を提案し、実測を行った。この方法では、Si/SiO2界面の界面凹凸形状の自己相関関数を、仮定を置かずに、高精度TEMによって、実際のSi/SiO2界面から直接測定し、自己回帰法を用いて決定できる。結果として、ひずみの印加と共に、表面凹凸の高さと相関長の両方が変化することが分かった。 ・上記の方法を用いて計算した移動度は、実測結果を定量的に説明できることが明らかとなった。この結果、ひずみによる電子移動度の上昇は、表面凹凸の高さの低下に、また正孔移動度の移動度の若干の低下は、凹凸の相関長の増加に起因し、電子と正孔のフェルミ波数の違いと凹凸の自己相関関数の波長依存性によって、電子移動度と正孔移動度の振る舞いの違いが説明できることが明らかとなった。 ・引張りひずみが印加されたSiにMOS界面を形成するグローバルひずみSi技術は、MOS界面凹凸の減少に有効であり、高い移動度や高い信頼性などが期待できる、新たな観点からのtechnology boosterとなり得る。 (2)クーロン散乱による移動度 ・クーロン散乱によって決まるSiMOS反転層の電子移動度に与えるひずみの効果に関し、基板不純物によるクーロン散乱移動度は、二軸引っ張りひずみの印加で、移動度は低下する。これは、基板木純物の増大によ名実効電界の増加により、ひずみの印加で低下したlight holeバンドとheavy holeバンドのエネルギーレベルがほぼ同等となることによるバンド間散乱の増大によって、説明できることが明らかとなった。
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