研究概要 |
(1)サンゴ礁生態系に作用する複合ストレスのうち,これまで定量化がほとんど出来ていない地下水経由の栄養塩負荷量の評価を可能にするべく,222Rnトレーサー濃度計測法と地下水流出シミュレーションとを組み合わせた方法を開発する.そして開発済みの熱輸送モデルや赤土輸送モデル,さらには下記の(2),(3)で開発するサンゴ礁炭酸系動態・物質循環モデル等に基づいて,サンゴ礁生態系に作用する複合ストレスの統合的な評価モデル体系の開発を目指す. (2)サンゴ礁生態系物質循環の根幹をなすサンゴ群集代謝に関して,サンゴ礁海水流動・炭酸系動態シミュレーションに多地点炭酸系計測データを同化させる新たな手法を開発することにより,サンゴ礁の複雑な地形・海底被覆空間構造の効果を陽に取り込んだ形の群集代謝評価法を確立する.これによりサンゴ礁全体としてCO2 吸収となる条件を明確にする. (3)サンゴ礁生態系を,サンゴ群集を基幹とした「サンゴ-藻場-干潟-マングローブ」動的統合系としての極浅海域生態系として捉え,サンゴ群集代謝および複合ストレス空間分布の評価モデルを取り込んだ統合的な物質循環・低次生態系モデルを構築する. (4)短期的なサンゴ群集の維持・変遷機構だけでなく,中・長期的な群集維持・変遷機構を明らかにするため,遺伝的解析手法をさらに導入することにより,サンゴ群集の自己加入過程やconnectivityから見た維持機構の基本プロセスの解明とその環境影響評価を行う. (5)景観生態学的手法に基づくfragmentation metrics解析を多時点の衛星画像解析に適用して群集のパッチ性やその多層スケール構造等の変遷を明らかにすることにより群集の空間的分布構造の変遷を定量的に評価し,複合環境ストレスの変遷との対応関係を解明する. (6)群集間競合関係と環境変動応答過程等のモデル化に基づいて極浅海域生態系を構成する群集構造の時空間変遷過程を表現する動的統合生態系モデルを構築し,環境ストレス増加に伴うサンゴ群集優占型から藻場優占型へのフェイズ・シフトといった強非線形過程の解析を可能にする. (7)以上に基づいて,複合ストレス中の制御可能要因についての合理的制御目標設定指針等を提示することにより,動的統合系としての浅海域生態系の機能保全・再生策構築に寄与する.
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