医療機器への生体物質の付着・吸着は、材料の機能性を著しく低下させるばかりでなく、ときに患者の生命を危険にさらす場合がある。したがって医療機器の開発においては、如何に「汚れ」の付着しない表面を構築するかが重要となる。本研究では、この生体由来の「汚れ」としてたんぱく質に注目し、たんぱく質の吸着反応に対し不活性な表面の構築を目指した。そのために、本研究により、たんぱく質吸着の原理原則の解明を試みた。平成21年度には、低分子量のペプチド合成装置を本格運用し、様々なアミノ酸配列を有する低分子ペプチドの合成を行った。側鎖にアミノ基やカルボキシル基、水酸基、メチル基を持つペプチドを合成した。水晶振動子マイクロバランス法(QCM-D)法による吸着量、粘弾性率の計測により、合成した低分子量ペプチドの金基板表面への吸着状態の検討を行った。合成したペプチドを分散させた水溶液を金基板上へ流入し、QCM-D法及び表面プラズモン共鳴分光法(SPR)により、金基板表面へのペプチドの吸着量の変化を測定した。さらに、自己組織化単分子膜を用いて、表面エネルギー等の表面特性を制御したモデル表面を構築した。作製した親水性及び疎水性モデル表面へのペプチドの吸着挙動を調査した。アミノ酸側鎖の官能基の違いによって、表面への吸着挙動に違いが見られた。さらに、官能基の種類により、異なる配列にした場合、吸着に違いが見られるものと見られないものがあることが分かった。次年度には、物理化学的特性と配列との多変数解析プログラム構築のための計測データの収集を引き続き進め、ペプチド・たんぱく質の配列と吸着・特性相関解析を行っていく。
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