研究概要 |
脊椎動物における卵巣分化の制御メカニズムに関する研究は、哺乳類ではまだ遅れており、魚類を対象とした研究が進んでいる。研究代表者の長濱らは、芳香化酵素阻害剤を用いてエストロゲン合成を抑制させたティラピアの生殖腺形成を詳しく解析することにより、魚類の卵巣分化にエストロゲン(エストラジオール-17β)が不可欠であることを明らかにしてきた。本研究では、魚類(メダカとティラピア)卵巣分化時における性ホルモンによる卵巣形成の分子メカニズムを明らかにすることを目指す。平成21年度は、性分化期生殖腺の3種のエストロゲン受容体(ER)(ERα,ERβ1,ERβ2)の発現変動を解析するとともに、卵巣分化に果すERの役割を遺伝子ノックダウン法により調べた。3種のERのうち、ERβ2のみが生殖腺の性分化期(受精後6-12日)に発現変動を示し、孵化直前のXX胚で高い発現を示した。一方、我々が昨年度にメダカで新しく開発したRNAi法による遺伝子ノックダウンを用いて3種のER遺伝子の機能を解析したところ、XX受精卵3種のERのノックアウトXX個体では孵化後40日には活発に精子形成を行っている精巣が観察された。この精巣では精巣体細胞(セルトリ細胞)に特異的に発現するgsdf遺伝子の強い発現が認められた。しかし、他の遺伝子(dmy,Rspondin1-Rspo)に比べて性転換率は低かった。このように、3種のER遺伝子の性分化生殖腺での発現解析、及びそれぞれのLoss-of-functionの実験結果より、メダカにおいてERβ2が卵巣分化に重要な役割を果たすことがはじめて示唆された。また、昨年度の本研究から、Rspoが卵巣分化に不可欠であることがわかったが、本年度はRspo遺伝子の発現が、卵巣では芳香化酵素阻害剤の処理で抑制されること、また精巣ではエストロゲン処理で促進されること、が明らかになった。今後、メダカの卵巣分化に果すエストロゲンとERβ2の機能、特にRspoとの関係についてさらに検討する必要がある。
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