研究概要 |
回折X線追跡(DXT)法を改良し、従来の数百倍の時間分解能であるサブミリ秒レベルの記録を達成することに成功した。また高速カメラと大容量メモリーの設置により数十秒間の記録が可能となった。この方法のために基礎的実験をESRF(European Synchrotron Radiation Facility, Grenoble, France)とSLS(Swiss Light Source, Villigen, Switzerland)の2か所の高輝度放射光施設で年間数100時間の実験を行った。白色X線のスペクトルなどを調整することによりバックグラウンドノイズを顕著に減少させることができた。この方法でKcsAカリウムチャネルのイオン透過路開閉(ゲーティング)に伴う構造変化を一分子レベルで追跡した。KcsAチャネルは溶液のpHを酸性にすることによってゲーティングを起こす。定常状態での測定ではどちら向きのねじれ運動が開過程なのか閉過程か特定できない。そこで、溶液のpHジャンプ(中性→酸性)による構造変化を捉えるための装置を開発した。中性から酸性へのpHジャンプを行えばKcsAチャネルは閉状態から開状態への構造遷移過程を追跡することができる。本法では測定容器が密閉されているので、溶液pHを短時間で変化させるためにケージド化合物を紫外線レーザーで励起することによって行った。pHジャンプ前の閉状態での構造揺らぎと、ジャンプ後の構造変化を捉えることに成功した。動画データから回折点を抽出し、フレーム間で回折点の軌跡を追跡するためのプログラムを開発中である。
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