本研究の最終的な目的は、遺伝学的手法と構造生物学を組み合わせて(=構造遺伝学)、真核生物の繊毛・鞭毛の中で多数のダイニンが協調して運動をする仕組みを理解することである。平成19年度は研究室の整備をしながら、上記の目的の為の基礎技術を幾つか確立してきた。 一つは、ダイニン分子の構造的な標識である。我々は、最近の論文でβ重鎖の頭部が動くことを観察したが、尾部(tail)とストークが見えていない為、頭部の動きが微小管に伝わってスライドさせる仕組みは解明できていない。作業仮説として、ダイニンの頭部が回転してウィンチの様にストークを巻き取っていると我々は考えている。この回転運動を明らかにするために、ラベルしたATPを合成し構造解析を行いつつある。この実験により、ダイニンの頭部が回転するかどうかをテストする。 また、ダイニンの高解像度解析の為に、ヘリウム温度で観察できる極低温電子顕微鏡に適したダイニン微小管複合体・データ取得方法の検討を行っている。現在、鞭毛ダイニンは主にトモグラフィーによって解析が行われて居るが、我々は傾斜ステージと単粒子解析の手法を用いてより高解像度(10-15 Angstrom)の解析を行えるように手法に改良を加えている。
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