研究概要 |
既に我々は、雌雄の性をもつ群体性ボルボックス目プレオドリナで、オス特異的遺伝子"OTOKOGI"を発見し、メスが同型配偶の性の原型(プラス交配型)から、オスは性の派生型(マイナス交配型)からそれぞれ進化したことを明らかにした(Nozaki et al.2006, Curr.Biol.)。しかし、メスとオスがどのような遺伝子を獲得して進化したかは明らかではなかった。今回我々は独自に開発した縮重プライマー(Hamaji et al.2008, Genetics)を用いてボルボックスのオス特異的遺伝子"OTOKOGI"を単離した。このボルボックスの"OTOKOGI"をマーカーとしたゲノム解析を端にしてオス,メスでは全ゲノム解読の結果、雌雄の性染色体領域の全貌が明らかになった。また、ボルボックスの性染色体領域には繰り返し配列が多く、遺伝子の同定が困難であったが、次世代シーケンサーを駆使した発現解析で多くのメスまたはオス特異的遺伝子の存在を明らかにした(Ferris et al.2010, Science)。 解読されたボルボックスのメス・オスの性染色体領域は1.0Mb(百万塩基対)を超え、同型配偶のクラミドモナスの領域の約5倍であった。オスの性染色体領域には"OTOKOTGI"等のオス特異的遺伝子が10個、メスの領域にはメス特異的遺伝子群が5個解読された。特に5個のメス特異的遺伝子がクラミドモナスには認められないもので、これらの遺伝子の獲得がプラス交配型からメスに進化する直接的な原因となったと推測された。従って、メスは単なる性の原型ではなく、メスへの進化には、メスらしさをもたらす遺伝子群の新たなる獲得が必要であったことが示唆された。一方、オス特異的遺伝子10個中の8個がクラミドモナスでは認められず、オスに進化するために獲得されたことが推測された(Ferris et al.2010, Science)。
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