研究概要 |
本年度は作物によるフィチン吸収機構の解析を作物根,土壌,微生物の3つの視点から検討した.結果の概要は以下の通りである. ラッカセイ幼植物にリン肥をフィチン酸カルシウム(粉末)で施肥したもの[フィチン区]をリン酸三カルシウムで施肥したもの[無機リン区],カルシウムのみでリンは与えないもの[対照区]と対比して,主根横断面のリン濃度をX線マイクロアナライザーで推定した.対照区では,中心柱において,種子由来と推定される低濃度のリンが検出されたのみであったが,フィチン区の根では無機リン区の根と同等かそれ以上のリンが検出され,フィチン由来のリンが吸収されていたものと推定されたが,根の横断面内での位置や各組織によるリン濃度の差異はみられなかった.また,土壌に蓄積したフィチンが植物に利用されにくい原因を探るため,ラッカセイ,ダイズならびにトウモロコシにフィチン酸ナトリウムを供与し,水耕および土耕条件でリン獲得能を比較した.水耕条件では,いずれの植物もフィチン酸をリン酸源として容易に利用した.水耕液を分析したところ,交換直後1時間以内でほとんどのフィチン酸が分解してリン酸イオンを放出していた.対照的に,土耕条件ではフィチン酸がリン酸源としてほとんど機能しなかった.フィターゼを含む酵素液に砂を添加してもその酵素活性は変化しないのに対して,土壌を添加した場合には速やかに酵素活性が低下したことから,土壌吸着作用による酵素活性の低下がフィチン利用能を妨げる原因のひとつと推察された.さらに,ラッカセイ根粒菌によるフィチンおよび難溶性無機リンの溶解活性を調査したところ,フィチン分解活性は認められなかったが,鉄態およびカルシウム態のリンの溶解活性を顕著に示す系統が認められた.一方,数種マメ科作物の根圏微生物のフィチン溶解活性を調査したところ,高い活性を示す系統が2系統認められた.
|