研究課題
昨年までの研究で沖縄産クワ科イチジク属植物のオオバイヌビワ(Ficus septica)の乳液は顕著な昆虫毒性を示し本種の耐虫性を担い疎水性アルカロイドが原因物質であることが示唆された。本年度はHPLCで精製を行い^1H-NMR,^<13>C-NMRで種々の測定法で測定した結果や紫外線吸収ピーク測定や分子量測定を用いた原因物質特定の結果、数種のPhenanthroindolizidine alkaloid類(PIA)が昆虫毒性の主因であり、最も寄与度の大きい成分はantofineであった。乳液中のantofine濃度は0.67%と高く、葉中平均濃度0.014%の約50倍に達し、antofineは乳液中に高度に濃縮していた。Antofineは極めて低濃度で顕著な成長阻害活性を示し、人工飼料中濃度でカイコやヨトウガ幼虫で3ppmエリサンでも30ppmで成長を阻害した。今後Antofineの極めて強い耐虫活性性の作用メカニズムの解明が必要である。調査した石垣島自生イチジク属植物8種中で乳液中からantofine類縁体を確認できた種は本種とアカメイヌビワ(F.benguetensis)のみで、他の6種(イヌビワ・ガジュマル・ハマイヌビワ・ホソバムクイヌビワ・ギランイヌビワ・オオイタビ)の乳液中には存在しないものと考えられた。これまでに我々はハマイヌビワ、ホソバムクイヌビワ等他のイチジク属植物では乳液中のシステインプロテアーゼが、クワでは乳液中の糖類似アルカロイドと新規耐虫性タンパク質MLX56が耐虫性を担うこととを明らかにしており、クワ科植物の乳液の多様な成分が植物-植食昆虫間生態・進化関係において重要な役割を持つことが明らかになった。イチジク属植物(850種)は熱帯生態系を代表する重要なキーストーン種群とみなされており、本発見は熱帯生態系における植物-植食者間相互作用の生態・進化関係の理解に寄与する発見である。
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