研究課題/領域番号 |
20248015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保田 耕平 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 准教授 (30272438)
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研究分担者 |
鎌田 直人 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (90303255)
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キーワード | 遺伝的多様性 / 種分化 / 分散 / 冷温帯林 / ルリクワガタ属 / オオトラフハナムグリ種群 / アリガタハネカクシ属 / ブナアオシャチホコ |
研究概要 |
本研究課題では、ブナ帯(冷温帯落葉広葉樹林帯)に生息する昆虫類を主たる対象として、各地域個体群の遺伝的、生態的、形態的分化に焦点を当て、その存在基盤となる森林の歴史的・空間的存在パターンが、昆虫の多様性創出にどのような影響を与えているかを検討することを目的としている。解析対象は穿孔虫(ルリクワガタ属、オオトラフハナムグリ種群、ヒゲナガカミキリ族)、食葉性昆虫(ブナアオシャチホコ)、歩行性昆虫(オサムシ族、ヒラタシデムシ属、アリガタハネカクシ属)等である。 本年度、ルリクワガタ属の遺伝子解析による分化過程を推定した論文及び、分化後二次的接触をおこした近縁2種間の遺伝子流動を解析した論文が公表された。また、ブナアオシャチホコの遺伝的分化、オオトラフハナムグリの房総半島個体群の特性、アリガタハネカクシ属の分布境界域における遺伝子流動等に関わる研究が進展し、学会で成果を公表した。また、比較対照研究を行うため、韓国でのサンプル採集を行った。 主な成果として、ブナアオシャチホコでは種内分化が非常に新しく、後氷期に津軽海峡をも越えて分散したこと、コウチュウ目の種では、地域分化の大きい種の存在や種分化後に二次的な遺伝子流動をおこしていること等の分類群ごとの特徴が明らかになった。たとえばルリクワガタ属では、垂直分布帯に応じて分化時期(温暖期あるいは寒冷期)の異なるグループが存在することが明らかになった。他方で、地形的・地史的要因から冷温帯林の孤立傾向が強い西南日本の個体群では、遺伝的分化が大きいことがすべての分類群での一貫した特徴であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定していた各分類群の解析が順調に進んでいる。研究成果は、本年度までに査読付原著論文13報を含む雑誌への掲載が18報、学会発表が18回あり、投稿中、投稿準備中の論文も複数あることから、今後も引き続き成果の公表が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、地理的分化をおこしている種については、種の境界付近のサンプリングを重点的に行い、補足的に解析を進めてゆく。これは集団間の遺伝子流動の有無や分化レベルの推定、集団の分断に寄与している要因の推定に貢献する。韓国で採集した対照群のサンプルについては本年度の重点的に解析する予定である。また飼育が可能な分類群については、生態的分化、生殖隔離のレベル等を推定するために、飼育実験、交配実験等も進める予定である。
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