(1)本研究課題の目的 ブナ(イヌブナ)林に代表される冷温帯の天然林は、西南日本で隔離される傾向が強く、東北日本では比較的連続的である。ブナ林は豊かな自然の象徴であり、そこには多くの動植物が存在するが、その多様性とブナ林の時空間的な存在様式との関係が検討された研究例はほとんど知られていない。本研究課題では、ブナ林に生息する昆虫類を主たる対象として、各地域個体群の遺伝的、生態的、形態的分化に焦点を当て、その存在基盤となる森林の歴史的・空間的存在パターンが、昆虫の多様性創出にどのような影響を与えているかを検討することを目的とする。 (2)本研究課題の内容 研究代表者らのこれまでの研究によって、比較的移動能力に乏しい昆虫には、非常に近縁な隠蔽種が存在していたり、地域的な遺伝的分化が非常に進んでいたりするケースが、これまでに考えられていた以上に普通に存在することがわかりつつあった。比較的孤立の度合いが高いブナ林の昆虫は、遺伝的分化を検討するのに適していると考えられるので、穿孔虫、食葉性昆虫、地表性昆虫等、生活様式の異なるグループからできるかぎり多くの分類群を選び、遺伝的、生態的、形態的分化の実態を検討することとした。さらにはこの結果と森林の存在パターンとの関係を考察し、今後の気候変動の影響等も加味しながら、生物多様性の保全という視点からの森林管理の方向性を検討することを目指している。
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