吉田らが確立した、約5000種類の分裂酵母遺伝子を1つずつ導入した組み換え酵母株において、遺伝子の過剰発現において生育が阻害された169株の遺伝子の機能を調べたところ、ヒトのがん化関連遺伝子のホモログが多数含まれていた。そこで、これらからその阻害によって抗がん剤のリード化合物となることが期待される遺伝子が導入された株5種を選抜した。2006年から2008年にかけて採集された海洋無脊椎動物抽出物ライブラリーを用いて、これら5種の組み換え酵母に対する生育回復試験を行った。多数のサンプルに活性が認められたが、そのうち大多数のサンプルがすべての株に共通して生育回復活性を示した。導入された遺伝子はnmt1の制限下にあるため、このプロモーターに作用して転写を調節する作用を持つ化合物が多くの海洋無脊椎動物に含まれることが、前年度に続き顕在化した。 なお、多くのサンプルにおいて酵母に対する生育の阻害が観察された。そこで、生育回復に加え、生育阻害物質の検索も並行して実施した。前年度のスクリーニングで強い生育阻害活性が認められた鹿児島県奄美大島産未同定種カイメンS97-013に含まれる活性成分の単離、構造決定を進めた。すなわち、カイメンをエタノールで抽出し、抽出物をクロロホルムと水で二層分配に付した。クロロホルム層をさらに90%メタノールとヘキサンで二層分配を行い、含水アルコール層をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーおよび逆相高速液体クロマトグラフィーに付して、2種類の活性物質を単離した。それらの構造解析を進めている。
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