研究課題/領域番号 |
20248023
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
左子 芳彦 京都大学, 農学研究科, 教授 (60153970)
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研究分担者 |
吉田 天士 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80305490)
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キーワード | 深海熱水環境 / 新エネルギー / 水素 / CO2固定 / 好熱菌 / ヒドロゲナーゼ / COデヒドロゲナーゼ |
研究概要 |
本研究は、超好熱古細菌Aeropyrum pernixの水素生産を触媒するヒドロゲナーゼを探索し固定化による水素生産特性を解析するとともに、CO資化性菌の分離とCOデヒドロゲナーゼの発現系の開発を目的としている。今年度の成果は以下の通りである。 1.海洋性超好熱古細菌Aeropyrum pernixのヒドロゲナーゼの多様性に関する研究 今年度は本酵素の固定化や応用に向けてより耐熱性で対酸素性を有する酵素を検索するために、ゲノム解析がなされ本酵素を生産するA.pernixを地理的に異なった熱水環境(小浜温泉、橘湾、山川等)から分離した。分離株の培養条件や生理学的条件を変化させて本酵素活性を測定して比較し、高い比活性を有する株を選択した。これらの分離株において、TB5株が至適反応温度90℃で高い非活性と耐熱性ならびに耐酸素性を有していた。またこらの株が生産するヒドロゲナーゼの遺伝子構造を比較解析した結果、本酵素はモリブデン型ヒドロゲナーゼであった。TB5株における酵素の比活性はA.caminiの同酵素より低いが、耐熱性は優れていた。 2.耐熱および対酸素性を有する固定化ヒドロゲナーの光-および電気化学的解析 超好熱古細菌A.camini、A.pernixおよび好熱水素細菌Hydrogenimonas thermophilaのヒドロゲナーゼを精製し、交互積層法(LBL法)並びにシリカゾルゲルマトリクス法(SG法)にてGlassy carbon上に固定化し、アンペロメトリー(定電圧荷電)試験を行った。安定的に水素生産が認められたのは、A.caminiの酵素のみであった。そこで本種の精製ヒドロゲナーゼを固定化し光触媒P-25を用いて、ヒドロゲナーゼ光水素生産系を構築した。その結果、LBL固定化法において6時間安定に水素生産を持続でき応用への基盤が確保できた。 3.熱水環境から耐熱性COデヒドロゲナーゼを有する菌の分離と性状解析及び本酵素発現系による生化学的解析 既に鹿児島県の鰻温泉から、気相100%CO、55℃で増殖可能なCarboxydothermus属の新種を見出した。今年度も、各地の熱水環境から多様なCO資化性菌の分離を試みたが、昨年度分離した株より増殖速度や収量が勝る分離株は得られなかった。次に昨年度開発したCOデヒドロゲナーゼ発現系の誘導系を改良して、より効率的に発現する系を構築した。分離株COデヒドロゲナーゼは好熱性を有し、既報のものとほぼ同様な比活性を有していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般に超好熱菌の分離や培養は極めて困難であるため、目的酵素を生産する超好熱菌の分離は時間がかかり困難が予想された。しかし、我々の研究室ではこれまで培養困難な微生物を扱う技術や経験を蓄積していたため、予想以上に効率的に多くの分離株を得ることができた。そのため、ヒドロゲナーゼの検索や精製を予定通り進めることができた。酵素の固定化の構築も問題点は残されているが、当初の目的はほぼ果たせた。また極めて培養困難で危険を伴うCO資化性好熱菌を昨年分離することがができ、発現系も効率は高くないが構築に成功したのでおおむね順調と評価される。
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今後の研究の推進方策 |
既に超好熱古細菌A.pernixから耐熱性ヒドロゲナーゼを見出し、精製して性状を明らかにしまた固定化して水素生産系の基礎を構築している。そこでさらに高い水素生産活性を有する分離株の取得を試み、水素生産への応用を目指す。深海熱水孔から分離された超好熱古細菌Aeropyrum caminiのゲノム解析を行い、ヒドラゲナーゼ遺伝子群の構造を解析して、A.pernixの本酵素遺伝子と比較することにより、応用を目指して遺伝子構造から本酵素に関するデータの収集を行う。既に報告した種とは異なったタイプのCO資化性菌の分離を試み、水素生産性を調査して利用に向けてその基盤を拡大を目指す。
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