本研究課題の対象とする黒毛和種牛の遺伝性疾患のうち前肢帯筋異常症は特徴的な肩甲部の著明な突出や耳介の下垂等が認められる疾患である。本年度の研究では本疾患の原因となる遺伝子を同定し、本疾患の予防のための遺伝子診断法を確立することを試みた。 本原因遺伝子はウシの第28染色体上の特定の領域に存在することから、まずウシのゲノム配列上でこの領域に対応する配列から、新たなマイクロサテライトマーカーを確立した。次にこれらのマーカーを用いて、サンプリングした発症個体を含む家系において、ハプロタイプの解析の解析を行い、疾患原因遺伝子の存在する領域をより正確に特定することを試みた。その結果、本疾患の原因遺伝子はウシ第28染色体上の約3Mbの領域に存在することが明らかとなり、ウシゲノムデータベースからこの領域に存在する遺伝子のコード領域の全塩基配列を解析したところ、これらの遺伝子には疾患の原因となるような変異は見いだされなかった。したがって本疾患の原因となる変異は、これらの遺伝子のコード領域以外に存在している可能性が考えられた。 次に、原因遺伝子の染色体上の位置が正確に特定されたことから、当該領域に存在し、疾患遺伝子と強く連鎖するマイクロサテライトマーカーを用いた遺伝子診断が可能であるかについて検討した。具体的は、疾患原因遺伝子周辺に存在する4マイクロサテライトマーカーを用いて、キャリアである種雄牛の息牛について遺伝子型を調べ、ハプロタイプの判定をしたところ、変異型遺伝子を受け継いだキャリア、正常型遺伝子を受け継いだ正常型ホモ個体を判別可能であることが明らかとなった。上記の連鎖マーカーを用いた遺伝子診断法は、特定の種雄牛の息牛を対象とした本疾患の遺伝子型判定に利用可能であると考えられた。 以上より、本研究では黒毛和種牛に発生する前肢帯筋異常症について、その疾患原因遺伝子が存在する染色体上の領域を正確に特定するとともに、その領域に存在するマイクロサテライトマーカーを用いることで、ある程度の正確度でキャリア個体の同定が可能であることを明らかとなった
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