研究概要 |
ソテツ根に含まれるジアシルグリセロールが,ソテツ・サンゴ状根を形成して窒素固定に関わるシアノバクテリア,Nostoc punctiforme糸状体コロニーを運動性の連鎖体(ホルモゴニア)へ分化誘導することを発見した。これは一連の窒素飢餓反応からソテツ根が膜内のフォスファチジルコリンからコリン部分を切り出して再利用し,残ったフォスファチジルリン酸からリン酸回収によってジアシルグリセロールとなってのち表皮細胞が脱落し,表皮周辺のNostoc punctiformeに側根先端から感染を促すための初期共生シグナルであると考えられる。また,マレーシア,サラワク州,ムカ近郊の塩性貧栄養性硬質粘土土壌に生育するニッパヤシが,その気道の発達した根内に窒素固定能の高いBurkholderia vietnamiensisを保持し,その分離株はsucroseを炭素源として非常に高いアセチレン還元を示すことを明らかにした。一方,泥炭に適応した現地自生Shore balangeran幼木根から分離した細菌のうち,Serratia属の1分離菌株がL-トリプトファンを極めて選択性良くIAAへ変換できること,またBurkholderia属分離菌株では低窒素および1mMタンニン酸存在下でインドールを効率よく分解し,そのヘテロ環芳香族窒素原子を利用できることを明らかにした。IAAは木質泥炭土壌という高負荷土壌での植物根の発達を促し,インドール分解は根面細菌の抗生物質耐性に重要な役割を果たすことから,やはり幼木の泥炭適応戦略の一部を担うと考えられた。幾つかの根面細菌は周辺の細菌群集の増殖を促すが,この多様性の維持が病原性細菌の暴走を抑制し,根の物質循環を動かす駆動力として機能していることを,イネ根病原菌と拮抗菌との関係,あるいはアブラナ根の糸状菌拮抗細菌の二次代謝シグナルの研究から明らかにできた。これらは亜酸化窒素生成細菌にも共通した機構であった。
|