研究概要 |
本研究では,農業など人為活動の介入の結果,本来自然生態系において必要不可欠なものであった「土壌生態系のホメオスタシス」が損なわれ,土壌酸性化,水系への栄養塩の流出,土地生産性/肥沃度の低下,砂漠化といった環境問題が現出してきた過程を実証的に検討・克服することを目的として,生態系の資源獲得プロセスを記述する速度論的元素動態モデルの構築を行う。平成23年度に得られた成果のうち重要なものを以下に列挙する。 1)土壌有機物の分解プロセスを,可溶化・無機化の二段階プロセスとして記述するために,日本,インドネシア,タイの様々な土壌を用い14Cトレーサー法を適用した研究を行った。その結果,セルロースの可溶化速度はいずれの土壌においても微生物の単糖無機化能よりも低く律速であり,かつ可溶化後に微生物に吸収されたセルロースの二酸化炭素と土壌残存画分への分配比は土壌種に依存せずおよそ一定であったことから,セルロースの無機化速度は単糖の供給速度,すなわち可溶化速度に規定されていることが定量的に明らかとなった。またセルロースの可溶化速度は土壌によって大きく異なり,温度・水分条件とともに,土壌の酸性度によって規定されることが明らかとなった。 2)カメルーン国東部ベルトゥア周辺(フェラルソル分布域)の森林・サバンナおよびこれらを開墾した農耕地計4地点に試験地を設定し,環境モニタリングおよび農耕地における物質動態の解明を目的とする圃場実験を行った。その結果,特に窒素動態に関して興味深い知見が得られた。すなわち森林では高濃度のNO3-がK+,Mg2+,Ca2+を下層へと溶脱させる駆動力となっているのに対し,サバンナでは有機酸が陽イオン類を溶脱させているがその量は森林の半分以下と小さかった。土壌データともあわせて,森林およびこれを開墾した耕地では窒素が,サバンナおよびこれを開墾した耕地では炭素が,相対的に過剰となり陽イオン類の下方浸透に寄与していることが示された。 3)炭素循環量の過剰・不足に対し,分解ステージにおける土壌微生物の働きは,バイオマスおよび基質利用効率の増減を通して「緩衝作用」を持つとみなすことができる。このような観点から,タンザニア農耕地における土壌有機炭素および窒素,土壌微生物バイオマス,作物の養分吸収量の経時変化を検討し,特に有機物施用などの耕地管理や土性の違いなどの重要性を議論した。 現在これらの結果を速度論的元素動態モデルとして統合中である。
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