研究課題
小胞体Ca2+放出は、リアノジン受容体とIP3受容体の2種のCa2+放出チャネルにより仲介され、様々な細胞機能を制御することが知られている。しかしながら一方では、小胞体Ca2+放出の活性化、不活性化や生理的調節の分子機構、さらにはCa2+放出シグナルの時空間的多様性の発生機構やその情報が細胞機能に変換される機構には依然として多くの謎が残されている。本研究での研究対象であるTRIC(trimeric intracellular cation)チャネルは、細胞内膜系に存在する新規膜タンパク質である。動物組織にはTRIC-A及びTRIC-Bの2種類のサブタイプが独自パターンで分布し、多くの細胞系で両者の共発現が観察される。約300アミノ酸より構成されるTRICチャネルは3本の膜貫通セグメントを有し、N末端が小胞体内腔に、C末端が細胞質側に配向していることが予想され、さらにホモ3量体を形成する。高純度に精製したTRIC-Aタンパクを人工脂質二重膜に再構築した電気生理学的検討において、TRIC-Aは一価陽イオン選択的チャネル活性を示し、細胞内膜系において主にK+透過性チャネルとして機能するものと考察される。両TRICサブタイプを同時欠損した変異マウスは胎生10日程で心不全となり、その変異心筋細胞では小胞体Ca2+過剰貯留などの小胞体Ca2+ハンドリングの破綻が観察される。H21年度には、新生致死となるTRIC-B欠損マウスについて検討した。肺換気不全により死亡する本変異マウスでは、肺胞膨潤に不可欠なサーファクタントの合成と分泌が顕著に低下していた。TRIC-B欠損肺胞上皮細胞では、小胞体Ca2+放出と細胞質Ca2+の低下しており、Ca2+シグナル感受性のサーファクタント合成と分泌が障害されることが示唆された。古くからCa2+放出に際して小胞体内腔に発生する負荷電を瞬時に消去することが、Ca2+放出の効率化に必須であると予想されており、カウンターイオンによる荷電の中和が想定されてきた。上記の結果は、TRICチャネルが小胞体Ca2+放出と同調してK+を小胞体内腔に導くカウンターイオンチャネルとしての機能していることを示唆する。
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