研究概要 |
糖鎖の生理機能は、単糖、糖ヌクレオチド、それらの輸送体、糖転移酵素のレベルと局在、糖分解酵素、細胞表面の受容体糖鎖など、多くの要因によって調節を受けている。我々はこれらの機能を統合的に理解するために、糖鎖サイクルという機能的なサイクルの存在を提唱している。本年度は、単糖の代謝動態を調査するため、昨年度に確立した方法をMSと直結した。さらに本法は安定同位体標識単糖(^<13>C_6-単糖)による代謝標識と組み合わせて、代謝動態はMSスペクトルで観察される糖ヌクレオチドの質量分布から推定した。例えば糖鎖サイクルの主要な構成単糖であるGlcNAcやMannoseで標識するとUDP-GlcNAcとCMP-NeuAc,およびGDP-ManとGDP-Fucが6マスずれのシグナルとして各々観察され、その代謝流束は細胞の種によって異なった。がん化、低酸素、低栄養などの細胞応答における糖ヌクレオチドの発現レベルも解析した。がん化ではUDP-GlcNAcの有意な上昇、一方で低酸素、低グルコース条件ではUDP-GlcNAcの約2倍の低下が認められた。低グルコース条件では、細胞の由来組織によって多様な応答が観察された。特に膵臓癌細胞ではUDP-Gal、UDP-Glc、UDP-GlcNAcの著しい減少も観察されたことから、膜受容体糖鎖の糖鎖修飾に影響を与えると考えられた。 本年度は更に、糖鎖サイクルを捉えるため、アジド、アルキン等で修飾した単糖誘導体を化学合成して糖鎖のイメージング技術を導入した。このほかノックアウトマウスを用いた糖鎖の機能解析も行った。GnT-IX欠損マウスを用いた解析では、幼若マウスの脳中のアグリカンがGlcNAc転移酵素(GnT-IX)の基質となって、O-マンノシル化糖鎖上のHNK1抗原として発現する事を明らかにした。また高分岐化N結合型糖鎖の糖尿病における役割をGnT-IVトランスジェニックマウスを用いて検討した。これらの研究は、更に遺伝学的解析やバイオインフォマティクス解析と組み合わせることによって、機能的な糖鎖サイクルを知る手掛かりとなる。
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