研究概要 |
PIR-B(ビアB)は, ほとんどの細胞上に普遍的に発現する自己のマーカー分子であるMHCクラスI分子と結合して免疫系細胞に抑制スイッチを入れる受容体である. これは生命システムに広く存在すると考えられる恒常的かつ自動的に細胞制御を行う受容体システムの絶好のモデルになる. 本研究はMHCクラスI分子の認識から細胞内の脱リン酸化酵素の動員に至るPIR-Bの動的プロセスの全容を解明する全体計画を有する. またこの自動的抑制システムが消失・変調した場合に惹起される免疫疾患についてその機序を解明する計画である. これらの成果が得られれば, アレルギー・炎症性疾患, 自己免疫疾患, 感染症, 移植関連免疫病, がん免疫をコントロールする方法の開発につながることが期待される まず, PIR-Bが有する「恒常的・自動的な抑制シグナル」の分子動態を理解する計画を進めた, さらに細胞内SHP-1の動態に至るプロセスとしてどのようなステップからその現象が成立しているのかを主に調査した.具体的には同一細胞上でのシス結合状態の分子の分布に関する評価, シス結合の状態で入力され続けているシグナル強度の評価をそれそれ定量的に行える測定系を確立することを試みた. 即ち, B細胞膜の一定面積上に存在するPIR-BとクラスI MHCとがどのような比率でシス結合しているのか, B細胞の刺激に伴ってそれがどのように変化するのかに関して, 共焦点レーザー蛍光顕微鏡を利用して詳細な定量的データ取得を行った. 物理的に膜面上で離れたレセプターの機能にもPIR-Bの影響が及ぶことの仮説として『シス結合によりクラスI MHCを認識することで恒常的な抑制シグナルを維持している. これが細胞内SHP-1の動態を制御し, ひいては距離的に離れた受容体を介するシグナル伝達に, 一様に抑制効果を発する』と考えていたが, これらの解析の結果, 概ね仮説が成立していることが示唆された. 即ち, 恒常的な抑制シグナルのべースラインの維持にPIR-B-クラスI MHC結合が大きく貢献していること, およびB細胞活性化後にこの抑制効果が増されること, さらに他のB細胞上の抑制系受容体のうち, CD22はこのPIR-B経路に特に影響されず, CD72はPIR-Bが欠損するとPIR-Bに代わって恒常的な抑制に貢献するという分子群としての協調関係が成立している4ことを見出した.
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