研究概要 |
【研究内容】PIR-Bの「恒常的・自動的な抑制シグナル」について実験科学による分子機構の裏付けを得るため,PIR-Bのリガンドの多様性とその認識機構,SHP-1の動態に至るプロセスの解析を進めた。PIR-Bは「シス結合により同一細胞上のMHCクラスIを認識することで恒常的な抑制シグナルを維持しており,膜面上で距離的に離れている各種受容体を介する活性化シグナル伝達に,一様に抑制的影響を与える」ことが示唆されている。このシステムの動態解明のためにMHCクラスIとPIR-Bの結合に関する構造学的,物理化学的解析,同一細胞上でのシス結合量の評価,膜面上での双方の分布の可視化について,それぞれ定量的に行える測定系を確立した。平成22年度は新たなPIR-Bのリガンドであることが示唆されたNogo,MAG,OMgpなどとのリガンド認識とMHCクラスIとの相違についてBIACoreを用いた測定を行い,少なくともNogoとMHCクラスIが結合するサイトがPIR-B分子内において相違することを見出した。またMAGとの結合はNogoとの結合親和性よりも低く,MHCクラスIとの結合親和性と同等であることが示された。共焦点レーザー蛍光顕微鏡解析においてPIR-BとNogo,MHCクラスIは細胞膜面上で結合していることを示唆するデータが得られた。 【成果の意義】B細胞の制御は,非自己に効果的に反応する一方で自己への有害な反応を回避するために極めて重要である。このシステムが崩壊すると自己抗体が過剰に生産されて自己免疫疾患を惹起する。そのためB細胞は多様な制御機能を持った分子群により調節されている。今回の我々の研究は,PIR-Bが,その同一細胞膜面上の制御性受容体,とりわけPIR-Bによりシスの関係で他分子と協調しながらB細胞の制御を行うことを示した,重要な知見を得たものであり,PIR-B等の制御性受容体の調節により免疫疾患を予防,治療することも可能になる将来性のある研究の基盤が構築された。
|