研究分担者 |
木村 章彦 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60136611)
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10364077)
宮石 智 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (90239343)
池松 和哉 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (80332857)
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研究概要 |
薬物中毒モデル:マウスにシスプラチン下投与して腎障害モデルを確立した.炎症性サイトカインであるIFN-γの遺伝子欠損マウスでは,野生型マウスと比較して腎障害が増悪していた.さらに,腎尿細管のautophagyを検索したところ,IFN-γ遺伝子欠損マウスでは,autophagyが減弱し,アポトーシスが増加していた.したがって,IFN-γがautophagyに対して促進的に作用することにより,シスプラチンによる腎障害においては保護的作用を有するサイトカインあると判明した. Chlorpromazine(CPZ)投与モデルマウスを作成し,脾臓・胸腺でのFas ligandの発現量を測定し,CPZ単回投与にて有意に増加することを確認した.また,骨格筋の電顕像にてCPZ長期投与後に核でのクロマチン凝縮が認められ,Apoptosisが生じることを確認した. 心不全モデル:マウスの大動脈を結紮し,圧負荷による心肥大・心不全モデルの作成を試みたところ,結紮後14日で,著明な心肥大による心不全を発症したことから,心不全モデルを樹立した.また,IFN-γの遺伝子欠損マウスでは,この心不全モデルにおいて,野生型マウスと比較して,心肥大および心不全が増悪していた.したがって,IFN-γは心臓の代償性肥大において重要な役割を果たしていることが明らかとなった. 静脈血栓モデル:マウスの下大静脈結紮による深部静脈血栓モデルを確立した.I型TNFレセプター(TNF-Rp55)の遺伝子欠損マウスでは,野生型マウスに比較して,matrix metallo proteinase(MMP)-2とMMP9の発現が,遺伝子およびタンパクの両方で減弱しており,静脈血栓の吸収が遅延していた.したがって,深部静脈血栓形成では,TNF-Rp55が血栓溶解に促進的役割を果たしていることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,種々の死因におけるサイトカインとケモカインの動態に関する実験的研究及び実務的研究を展開し,これらを指標とする各種死因の分子病態生理を解明し,最終的には,サイトカイン・ケモカインを指標とする「分子法医診断学」の確立を目指すことである.敗血症,薬物中毒,溺死など様々な死因について,全身及び局所のサイトカイン・ケモカイン動態を検索し,死因判定の有用な指標の一つとなり得るか否かについて検討することであった.現在まで,敗血症についてはCX3CR1やCCR2などのケモカインレセプターが,溺死については脳,肺,腎臓におけるアクアポリン,アセトアミノフェン肝障害についてはCXCR2,深部静脈血栓についてはIFN-γやTNFが有用な指標となることを明らかにすることができたからである.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,突然死の死因として最も多い心臓疾患,特に心不全病態を明らかにするため研究を遂行していく予定であり,現在までIFN-γが重要なサイトカインの候補であるところまでつきとめており,より詳細な検討を行う予定である.また,シスプラチンなどの抗ガン剤による臓器障害の分子メカニズムについても検討を行う.また,敗血症においてはこれまでのCX3CR1やCCR2などのケモカインレセプターに加えて,CCR1やCCR5といったケモカインレセプターについても検討を行う.
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