WNKキナーゼシグナル伝達系は、腎臓での塩分出納調節に関わるWNK-OSR1/SPAK-NCCシグナル伝達系を我々が世界に先駆けて発見報告したが、その後の本研究により、WNKキナーゼを取り巻く上流のregulatorと下流のeffectorを数多く報告してきた。 上流のregulatorとしては、液性因子としてアルドステロン、アンギオテンシンII、バゾプレシン、インスリン等を同定した。また、WNK-OSR1/SPAK-NCCシグナル系が塩分摂取に応じて制御される系である事を報告していたが、その他カリウム摂取や最近ではリンの摂取量に応じてもこの系が制御される事を示した。最近では、WNK4が原因遺伝子である遺伝性高血圧症性疾患(偽性低アルドステロン症II型(PHAII))の原因遺伝子として報告されたKLHL3とCullin3のWNKキナーゼ制御の分子機構を解明した。KLHL3とCullin3は複合体を形成し、WNKのE3ユビキチンライゲースとして機能し、WNKの分解に関わっていた。この3者のいずれに変異が入ってもWNK4の分解が障害され、WNK4量が増加することでPHAIIが引き起こされることも明らかとなった。 下流のeffectorに関しては、NaCl共輸送体(NCC)のみだけでなく、同じ輸送体ファミリーに属するNKCC1とNKCC2もOSR1/SPAKによりリン酸化されて制御を受けていることが、明らかとなった。NKCC2はNCCと強調しておもにOSR1の制御下に腎臓でのNaCl出納調節に関わり、NKCC1は全身の各種細胞に存在するため、種々の機能に関わっている可能性がある。一つには、血管の平滑筋において、そのトーヌス調節に関わっていることを、SPAKのノックアウトマウスを作成して示す事ができた。このように、全身におよぶWNKシグナルを明らかにすることができた。
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