日本のみならず世界中で移植臓器の不足が深刻さを増し、organ traffickingやtransplant tourismが国際的問題となっている。現在の移植医療の枠組みでは根本的な解決が困難と考えられる現状に対し、我々は新たな"移植可能な再生臓器"を作成すべく、他動物をscaffoldにして再生させたキメラ臓器に注目した。今年度我々は、キメラ肝臓を移植に用いる場合の利点や問題点を明らかにし、その対処法を探る目的で、マウス内にラット由来肝細胞とマウス由来支持組織を併せ持った肝臓(キメラ肝臓)を作成して、その肝細胞と同種同系もしくは同種異系ラット・レシピエントに臓器移植する系を確立した。また、ラット肝細胞のドナーにluciferase遺伝子導入の遺伝子改変ラットを用いることで、ラット・レシピエントを犠牲死させることなく、移植後キメラ肝臓のviabilityを経時的に評価するシステムも確立した。レシピエント・ラットはキメラ肝臓を構成するマウス由来組織に対して拒絶反応を示すが、肝移植臨床で一般に用いられるtacrolimusを術後投与することで拒絶の改善を認めた。また、cyclophosphamideを投与することで更なる改善を、luciferaseによるin vivo imagingや組織学的評価で認め、多剤併用による拒絶コントロールの可能性が示された。また、レシピエント・ラット内でキメラ肝臓由来のアルブミン産生をELISAを用いて計測したところ、luciferase発光量に相関した血中濃度を確認した。今後は、移植後キメラ肝臓に対する拒絶制御と、レシピエント・ラットに対するlife support能、キメラ肝臓内の支持組織を更にラット由来組織に置換する可能性を検討していく予定である。
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