研究概要 |
脳虚血後の海馬神経細胞における網羅的分子イメージング 神経細胞の虚血脆弱性・メカニズム解明のために、新たなアプローチとして質量顕微鏡法を用いた分子imagingを施行した。ラット全脳虚血モデルを用いて遅発性神経細胞死に至る海馬における分子動態変化の解析を行った。CA1領域の神経細胞死、グリオーシス、炎症に関する病理組織学的評価と同時に、それに対比する切片で、質量顕微鏡法により、リン脂質の分子動態変化を解析した。CA1の神経細胞層特異的にPC(16:0/16:0)やSM(18:0)が経時的な増加が示された。細胞死の過程で海馬において細胞膜の主要構成成分であるリン脂質が脂肪酸組成により異なる局在を示したことから、リン脂質の生理活性がアポトーシスや炎症反応等に関与することが示唆された。質量顕微鏡法による生体組織におけるリン脂質の脂肪酸組成による局在分布の違いを可視化し解析することが可能となり、神経細胞の虚血脆弱性・メカニズムを解明する一助となると考えられた。 HIF-1に注目した虚血耐性獲得メカニズムの検証 低酸素負荷によりHIF-1(Hypoxic inducible factor-1)αの誘導を行った。HRE(hypoxia responsible element)トランスジェニックラット(TgRat)を用いて、野生型ラット(wRat)と比較対照することにより、HIF-1αの脳血管構築に及ぼす影響(先天的な血管構築の違い)と脳梗塞における脳及び脳血管に及ぼす影響(後天的な虚血ストレスに対する耐性獲得-末梢血管側副血行路の発達による循環の改善)に関して評価した。今回の実験で,低酸素負荷群では脳梗塞の縮小を認め(虚血耐性現象),さらにその現象がHRE過剰発現群でより強力に進められることが分かった。これまでにも,虚血耐性現象の獲得に,HIF-1の関与を示唆する報告がなされていたが,本研究結果によってHIF-1が虚血耐性現象に促進的に働くことが確かめられた。さらにHRE過剰発現ラットにHPを加えた群において,脳微小血管数の増加と血管内皮細胞の増加が確認された。また,HIF-1標的遺伝子であるVEGFの蛋白量がHRE過剰発現ラットにHPを加えた群で増加していた.
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