研究概要 |
難治性および慢性根尖性歯周炎罹患歯の根管内(n=27)あるいは根尖孔外(n=30)バイオフィルム試料について,16S rRNA遺伝子解析法にて細菌種を同定するとともに,臨床症状との相関性を検討した。Porphyromonas gingivalis, Tannerella forsythia,ならびにFusobacterium nucleatumは各々11,7,3試料の根管内および18,16,14試料の根尖孔外バイオフィルムから検出された。Prevotella sp.が根尖孔外から検出された症例では,自発痛の既往,発赤・腫脹の既往,打診痛が平均より高い頻度で発現し,Bacteroides sp.では自発痛の既往が比較的高頻度の症例でみられた。P.gingivalisが根尖孔外から検出された難治症例では,打診痛と発赤・腫脹が平均より高い確率で出現し.T.forsythiaでは排膿,打診痛ならびに瘻孔が,F.nucleatumは発赤・腫脹が比較的高率でみられた。根尖孔外試料よりP.gingivalisは18症例から,T.forsythiaは16症例から同定されたが,そのうち13症例では同時に検出され,この2細菌種の共存が根尖性歯周炎の難治化に密接に関連していることが強く示唆された。 一方,平成20~22年度にin vitroで行ったP.gingivalis ATCC33277株のバイオフィルム形成過程における遺伝子発現の変化についての検索結果を基に,バイオフィルム形成に関わる遺伝子PGN_0088の欠損株を作製し野性株のバイオフィルムと比較検討した。走査型電子顕微鏡観察では,変異株のバイオフィルムは野性株より起伏に富んだ層状構造を呈していた。共焦点レーザー顕微鏡観察では,変異株のバイオフィルムには顕著な網目状の多糖様構造がみられ,構成糖の定量解析の結果,1菌体当たりの糖成分量は変異株では野性株に比べて有意に増加していた。PGN_0088は,バイオフィルム中の糖合成を抑制し,バイオフィルムの3次元構築に関与していることが示唆された。現在,本遺伝子の機能解析をさらに行うとともに,他のバイオフィルム関連遺伝子についても検索中である。
|