オポーレ(ポーランド)のNGO「ドイツ・ポーランド協働の家」に委託した、在ポーランド・ドイツ系少数民族に関する統計的社会調査および意見聴取のデータが出揃ったため、その邦訳・分析を進めた。その結果、(1)体制を転換させたポーランドが2004年5月1日にEUに加盟し、2011年7月1日から12月31日までEU議長国を務めたことなどを背景に、ドイツ・ポーランド関係はきわめて良好なものとなり、両国間の「歴史問題」は、なお散発的に話題とはなるものの、基本的には著しく後景に退いている、(2)旧ドイツ領のシュレージエンでは、相当数のドイツ系少数民族が存在するものの、シュレージエン独自のアイデンティティを発展させており、ドイツかポーランドかという二者択一的な問題設定はもはや意味をなさない、(3)そのような状況下で、「戦争の被害者」としての自己像に固執するドイツの「被追放民連盟」や、逆に、「単一民族国家ポーランド」の神話に拘泥するポーランド右派勢力の活動は、地域の平和と和解を阻害することがますます明瞭になっていることが明らかになった。 本研究の原初的な問題関心は、日韓・日中のアナロジーで、ドイツ・ポーランド間の「歴史問題」を考察することにあった。しかし結論的には、ナショナリスティックな歴史認識が根強く、歴史修正主義的言説すら横行する東アジアの状況は、関係改善へのすぐれて主体的な意志と、それを反映した制度的枠組みをもって取り組むべきものであり、ヨーロッパに「解決モデル」を求めても、ないものねだりに終わらざるを得ないと言える。
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