研究概要 |
本年度は予定していた夏季シベリアサンプリングによるヤクーツクからの試料持ち帰りがロシア政府の方針転換により叶わなかったため,急遽フィンランドにサイトを代え,ラップランド・オーランカの森林限界に近い地点での土壌サンプリングを行い,これまで東シベリア・タイガ林の林床土壌と同じ方法で,窒素固定能の検定を試みた。ラップランドのポドソルでは,溶脱の起こったA0層よりも下層のA1層褐色土壌で比較的高いアセチレン還元が認められた。この傾向は東シベリアのそれと同じであったが,培地に添加する糖に対する反応ではその反応がラップランド土壌洗浄液では東シベリア土壌とは大きく異なり,0.02%という低い糖濃度に一つ目の活性極大濃度をもち,0.5%に二つ目の活性極大ピークを示した。東シベリアの湖沼底質からのメタン発生は底質のCN比を下げるため,窒素の無機化と開放が促進されるが,その動態を左右するメタン生成細菌を底質から探索し,Methanobacterium属古細菌を16S rRNA遺伝子解析から同定した。また,北方圏の陸生生態系における窒素供給がミズゴケ生産と連動し,これもミズゴケ表面に付く窒素固定微生物であることを示す幾つかの証拠を得た。さらに,北方林で頻発する大規模な森林火災が有機物中結合性リンを開放し,その制限要因が排除されることから,放線菌あるいはシアノバクテリアと共生体を形成し,活発な共生窒素固定を行うハンノキや蘚類が出現し,再形成されつつある生態系への窒素供給を担うことを強く示唆する実験結果が得られた。また,北方林のもう一つの特徴である外生菌根菌類や腐生性担子菌類の菌糸塊やシロから放出されるマンニトールが土壌中の窒素固定を担う単生窒素固定細菌の重要な炭素源であることが示された。
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