研究概要 |
2010年度も夏季シベリアサンプリングによるヤクーツクからの試料持ち帰りが許可されない。状況が続いたため,フィンランドラップランドに位置するKilpisjarviの北方森林限界での土壌微生物調査ならびに北部スウェーデン・Arjeplog近郊Reivoで北方林床蘚類(特にfeather mossと呼ばれるハイタチゴケ,イワダレゴケ,ダチョウゴケの3種類),さらにはポドソル土壌とその下層であるB層の土壌サンプリングを行い,これまで東シベリア・タイガ林の林床土壌と同じ方法で,シアノバクテリアの検索分離と窒素固定能の検定ならびにDGGEによるメタゲノム解析を試みた。Arjeplogでは,成立経年数が大きな森林林床を覆う蘚類に高頻度で窒素固定性藍藻類であるNostocが付着するとの現地研究者らの見解に反し,森林再生から30年という比較的若い林分から得たハイタチゴケに極めて高頻度でNostocの着生が認められた。ラップランドでは,森林限界を越えたツンドラ地帯のガンコウラン直下の土壌で比較的高いアセチレン還元が認められたが,他の森林限界点付近のカンパ林や針葉樹林の林床土壌では活性はほとんど検出されないか,高くなかった。また,東シベリア土壌細菌群集同様,ラップランド・ツンドラ土壌でも炭素源濃度や培養温度に対しては現地土壌環境に近いもので活性が高くなる傾向が認められた。この蘚類に付著する窒素固定性Nostocを10株以上分離し,蘚類の水抽出物によってホルモゴニア分化が抑制されるとの結果を得た。また,フィンランドのミズゴケ表面や苫小牧の石炭火力発電所のコケにもシアノバクテリアが高頻度で付くことを示す幾つかの証拠を得た。北方森林限界土壌から得た微生物は,混合培養では極低窒素培地で高いアセチレン還元を示したが,分離株ではそれぞれ極低窒素培地で高い増殖能を示すにもかかわらず,アセチレン還元を示さなかった。
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