研究概要 |
フィンランドおよびスウェーデンのカンバ森林限界帯で土壌サンプリング,蘇類収集,ならびにリタ-収集を行った。フィンランド,ラップランド・キルピスジャルビの森林限界に近い地点,また,スウェーデン,スカンジナビア・アビスコの山岳地帯で森林土壌とツンドラ土壌の土壌細菌相の比較を目的としてサンプリングを行った。大臣許可を得て持ち帰ったこれらの土壌試料は,ジェランガム法で窒素固定能の検定を試みた。フィンランド・ラップランドでは,森林限界線を越えて広がる亜北極ツンドラ帯のうち,土壌水分含有量の高い地点で採取したO層およびA層でのみ高いアセチレン還元能を見いだした。ツンドラ土壌での窒素固定に寄与する微生物をジェランガムゲル培地による培養法とDGGE法の組み合わせて解析し,A層にはDugnella属細菌とClostridium属が主要な培養可能細菌として,またnifH標的DGGEでは得られた主要なnifHバンドの塩基配列から,Azotobacter属,Mesorhizobium属,Geobacter属,Methylosinus属細菌などが窒素固定寄与細菌候補とする結果が得られた。これに対しO層ではClostridium属細菌が主要細菌相を成すものの,A層に比較して菌相が多様性に富み,nifHはMesorhizobium属およびGeobacter属のものが優位であった。これに対し,カンバ森林限界線直下の匍匐性Betula nanaと中高木のB.pubescens樹下の林床土壌では,B.nanaでは圧倒的に低温耐性Actinobacterium門細菌Microbacteriaceae科とStreptomycetaceae科の細菌群が,一方,B.pubescensではミズゴケ付着性でペクチン分解能の強いものが含まれるα-Proteobacteria門のMucilaginibacter属細菌がそれぞれ同定され,植生によって主要な機能性菌相が大きく異なることが明らかになった。2種のBetulaに加え,Empetrum nigrumのリタ-を収集後,そこに含まれる二次代謝産物が菌相の機能性や優占性にどのような影響を及ぼすか検定し,フェノール類に強い抑制効果を認めた。
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