研究概要 |
当該年度のマオウ属植物(Ephedra)に関する海外学術調査は,6月27日~7月5日に中国の新疆省和田及びウルムチ,9月13日~9月22日にフランス南部で行なった。また,別にアメリカ在住の研究者に依頼して,北アメリカ産のマオウ属植物を採集した。 中国新疆省では,北京大学及び新疆大学の協力を得て崑崙山脈の北面を調査し,乾燥地帯でEphedra intermediaを採集し,ウルムチでは天池周辺で同種とE. equisetinaを採集した。一般に乾燥地帯に生育する株はアルカロイド含量が高いが,今回採集した株は予想よりも低く,アルカロイドの多寡には湿気以外の要因があることが示唆された。また和田のウイグル薬物店においてチャカンダと称されるEphedra由来の生薬を入手した。帰国後の研究で,入手したチャカンダ6点はすべてE.przewarskiiに由来することを組織学的に解明した。 フランスでは,パリ博物館職員の協力を得て,南部の海岸付近で多数のE. distachya subsp. distachyaを採集し,帰国後の化学的研究により,全体的にアルカロイド含量は低いが,木質化して立ち上がる株では高含量であり,伏して密生する株では低含量であることが明らかになり,化学的多様性が生ずる要因の一端が明らかになった。また,DNA解析の結果は以前に入手したスイス産やトルコ産の株とほぼ一致したが,組織学的に検討した結果,それらとかなり内部構造が異なることが明らかになった。以上の結果は,本分類群は従来分類学的に同種か否かで問題となっている中国産のE. sinica(=E.dahurica)とは別分類群とすべきことを示唆しており,現在最終的な検討を行なっている。また,種子発芽並びに代表者らが開発した挿し木法により,フランス産の生きた株を保有することができた。 アメリカ産のマオウ属7種については,すべてアルカロイドを全く含んでいないことを明らかにした。 なお,予定したイランへは連携研究者の池田が訪問したが,本属植物は見つけられなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に予定した全ての地域で現地調査を行なった。マオウ属植物の多様性については,アルカロイド含量,内部形態,DNA塩基配列などを調査し,従来分類学的に問題となっていたヨーロッパ産のE. distachyaは東アジア産のE. sinica(=E.dahurica)とはかなり異なり,両分類群は別種とすべきであるという結論を得たことは特筆すべき成果である。また,今後の栽培研究に向けてフランス産株の生植物を確保できたことも大きな成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,主として,他種に比して分布域が広いEphedra intermediaおよびE. equisetinaついて,その分布,生態的,形態的,化学的,分子生物学的な多様性の実態を明らかにし,種分類を再検討する必要がある。とくに,これら2種は漢方生薬「麻黄」の資源植物として日本薬局方に規定されており,資源の確保,品質の検討など,医薬学的見地からも重要な一群である。両種の更なる研究に必要な資料を収集するため,中国からヨーロッパにかけての未調査地域において現地調査を行なう。また,分類学的情報の収集のために,ヨーロッパ各地のハーバリウムの訪問が必要である。さらに,薬物資源の確保を目的に,日本における麻黄の栽培研究も同時に進行させる。
|