サバンナ気候下における農村水資源の運用に際して意思決定支援を行うための汎用数値モデルの開発を行った。西アフリカのサバンナ気候下においては地表水の動的挙動の把握が前提となるので,本研究開始時より着手していた,多重連結型1次元開水路網における浅水方程式ならびに輸送方程式に関する基礎的,応用的研究を一層推進し,汎用性,安定性,精度において十二分な段階に達することができた。ガーナ国北部州に設定したコアサイトを中心に,水理・水文・生態系データが十分に蓄積されてきたので,地域住民へのインタビュー調査および地表水の動的挙動に関する数値解析結果と併せ,研究の集大成となる小規模ダム灌漑スキームの確率制御手法を構築した。これにより,コアサイトにおける伝統的農村水資源管理の実際と矛盾しない持続可能な灌漑農地開発手法が提示され,当初の研究目的が達成された。以上の手法を高度化,汎用化することにより,世界の他の地域へ展開する可能性を模索した。コアサイトに比べて地下水へ依存した灌漑農業が重要なバングラデシュ国,ならびに,より乾燥した気候と塩分が制約条件となっているヨルダン国へ数次渡航し,水資源利用に関する調査を行った。また,琵琶湖集水域における水生生物生態系の管理については従来より取り組んでいるが,簡易な水理構造物を設置することによる実証的研究を行った。それぞれの地域における農村水資源開発に際しての問題点を抽出し,開発した汎用数値モデルの適用性について,検討中である。とくに,いくつかの実問題では,確率過程の拡散係数が制御変数に依存する問題へ定式化されることが予想され,理論の構築,数値手法の開発を並行して進めている。
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