本年度は、インドネシアMajarengkaの住民を対象として、現地で伝統的に食用とされる果物メリンジョが生活習慣病の指標を改善する事、また爪遺伝子分析が血管疾患リスクの高い集団を見出し発症予防対策に有効である可能性を示した。 メリンジョは、プリン誘導体を多く含むため痛風の原因になることが予想されるが、その疫学的データは得られていない。そこで我々は、アンケートによる調査とCARDIAC方式による健診を実施し、メリンジョ摂取の健康への影響を解析した。その結果、予想に反しメリンジョは、痛風の原因となる尿酸値(p<0.05)、動脈硬化の原因となる高血圧(p<0.01)、高感度C反応性蛋白(p<0.01)を有意に抑制し、生活習慣病の予防に効果がある可能性を示した。 爪遺伝子分析は、爪からDNAを抽出後、血管疾患との関係が指摘されている葉酸代謝関連酵素MTHFRのC677T遺伝子多型を同定し、健診データと比較する事で遺伝的リスクを解析した。今回の被験者では、C677Tの遺伝子頻度はCC、CT、TT型がそれぞれ71.1%、24.7%、3.1%であった。一方、各遺伝子型において、血管疾患のリスクを高める事が知られているホモシステイン濃度の平均値は、CC、CT、TT型それぞれ13.5、14.9、60.0(・mol/1)でありCCおよびCTに対しTTはいずれも有意(p<0.0001)に増加し、日本や他の国における調査と比較しても顕著な上昇であった。この結果は、ホモシステイン濃度に対し、C677Tの遺伝子変異が、地域特有の食環境リスク、特に葉酸の欠乏とともに相乗的に作用している可能性を示唆した。このように爪遺伝子解析を用いる事で、生活習慣病のリスクを低減するために、葉酸の摂取など地域にあったプログラムによる栄養改善の食育を実施する必要性を明らかにした。
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