本年度は、オーストラリアのヴィクトリア州に居住し、これまで疫学的データが十分に得られていないアボリジニーを対象にCARDIAC方式による健診を実施した。10から70才代の84名の健診結果から明らかになったリスク者の割合は肥満26.2%、高血圧29.8%、脂質代謝異常48.8%と高値を示した。また血管疾患との関係が指摘されている葉酸代謝関連酵素MTHFRのC677T遺伝子多型を解析したところ、CC、CT、TT型の遺伝子頻度は56.1%、35.4%、8.5%であり、循環器疾患のリスクを高める事が報告されているホモシステイン濃度はTT型が25.5(μmol/l)でCC型14.1およびCT型18.1に対し有意に高い。さらに血中葉酸濃度が低いグループのみでTT型がCC、CT型に対しホモシステインは有意に高値を示すことから、C677Tの遺伝子変異が、地域特有の食環境リスク、特に葉酸の欠乏とともに相乗的に作用している可能性を示唆した。TT型のホモシステイン高値はインドネシアの初年度の研究成果とも一致し、遺伝的背景がリスクに与える詳細な影響を明らかにするため、生活習慣病に関わる遺伝子の網羅的解析が必要でありその準備を進めた。 また前年度に健診を実施したインドネシアのマジャレンガ村を再訪して報告会を行い、現地では循環器疾患のリスクが極めて高い対象に対し食習慣の改善のための指導を行うとともに、生活習慣病に関わる遺伝子の解析をさらに詳細に実施するため参加者に同意を得てDNA分析用の血液の採取を行った。 このように倹約遺伝子を保有していると考えられるオーストラリアとインドネシアの両地域の人々の健診により、生活習慣病のリスクが非常に高いことを明らかにし、早急に食生活を含む生活習慣を改善しメタボリックシンドローム関連疾患発症予防対策に取り組むべきであり、食育と食環境改善による予防の可能性と重要性を示した。
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