研究概要 |
本研究の目的は,人の奥行き知覚特性の数理モデルを構築し,それに基づく可視化情報処理アルゴリズムを実現することにある.具体的には,A.奥行き手がかりの空間知覚に対する影響の確率モデル構築,B.構図を用いた奥行き情報の強調・省略技法のモデル化,C.奥行き情報の圧縮とそのディスプレイ表示への応用の3つの課題に取り組む. 特に本年度は,研究課題A.を中心に取り組み,課題B.やC.における基礎を構築ことに主眼をおいた.実際に行った作業としては,奥行き手がかりのうち相対的大きさと線遠近法の2つが,人の空間知覚にどのような影響を与えるかを調べる実験システムを実装し,実際に10名程度の被験者を募り心理物理実験を行った.得られた知見として,まず1点透視図においてはオブジェクトの大きさのずれは,線遠近法手がかりからの距離のほぼ比例することを確認した.さらに,2点透視図においては,2つの1点透視図の組み合わせと位置づけると,より線遠近法手がかりを構成する平行線が急な角度を作らない方向に偏って知覚する傾向があることを統計的に導出した.さらに,本研究課題用に導入した注視点計測装置を用いて,様々な奥行き手がかり配置に応じて,透視投影図のそれから逸脱するほど,ある特定のオブジェクトに視覚注意を集められることが定性的に確認できた.現在以上のような知見に基づき,課題B.における奥行き手がかりを用いた構図生成システムの実装を進めるとともに,先の視覚注意分布に関しより定量的な解析を施す手順を考案している.また,課題C.を実施するための,可視化環境の整備を進めているところである.
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