研究概要 |
本研究は,法令工学の研究として,法令文書を対象に法令構造を分析・モデル化し,モデルに基づいて,法令文書の解析法,法令文書の可読性向上法などを明らかにし,法令工学の発展に資することを目的とする.法令工学は,安心安全な社会の実現に向け,「法令は社会を動かすソフトウェアである」という視点から,法令の作成・解析・変更を系統的に行う方法論,法令構造に基づいて法施行情報システムを設計・開発する方法論,法令,情報倫理,技術標準を情報システムや組織規則に反映させる方法論などを研究する学問である.本研究は法令工学の言語面に関する基本技術を対象とする. 本期間は,主に国民年金法を対象に,前期に引き続き,法令文書の法令構造の分析・モデル化,注釈付きコーパスの作成,法令構造の解析法とシステム化などに関する研究を行った 法令構造の分析・モデル化に関しては,国民年金法の条項について要件効果構造の再分析を行うとともに,厚生年金法の一部の条項,法の適用に関する通則法の条項第1文についても分析を行った.条項が複数文の場合,挿入文の内容も合わせ,条項の要件効果構造も複数になることが多いが、文との対応は複雑である.これらの分析に基づいて,国民年金法の注釈付きコーパスを修正するとともに,厚生年金法等の注釈付きコーパスを作成した. 法令構造の解析法に関しては,条項の要件効果構造の解析法,法令文書のクラス概念とそれらの関係の抽出法の研究を行うとともに,システム化し,有効性を確認した. 条項の要件効果構造の解析法については,規則ベースと機械学習ベースを研究した.規則ベースについては,条項の要件効果構造を捉えるパターン規則を注釈コーパスから自動的に獲得する方法を研究し具体化した.パターン規則は,正規表現により記述され,国民年金法の約600の条項および約350の挿入文に対し,条項を構成する1文または2文の要件効果構造を捉えるともに,括弧内の挿入文の機能を捉える.機械学習による方法は,2段階からなり,まず,主題部,要件部,効果部など,要件効果構造の部分をCRFsにより認識し,次に整数線形計画法により要件効果構造を認識する方法を提案し,部分が74%,要件効果構造が80%,全体が56%の認識精度である. 法令文書のクラス概念とそれらの関係の抽出法については,法令文の格構造を解析し格役割および動詞などの情報を用いる方法を提案し,国民年金法に適用して,人手によるオントロジーと比較し,有効性を確認した.
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