研究概要 |
本研究の目的は,音声の韻律的側面の知覚について人間が内的に行う処理を模擬した計算アルゴリズムを構築し,それを利用して第二言語習得を支援することである。より具体的には,リズムやテンポなどの時間構造と基本周波数の時間変化パターンを対象に,学習者の発話の良し悪しを客観的に評価するしくみを提供する。 平成23年度は,手動による音声データのラベリング処理に注力した。これには,前年度に定めた統一基準を用いた。これにより,時間的に精度が高くかつ音声学的に精密な音韻分節情報を持つ音声データベースの構築に着手できた。以上は学習実験の具体的な枠組みの構築に不可欠な要素である。その他の主要な成果は以下のとおりであった。 韓国語話者による日本語長短音素の聞き取りおよび学習における誤反応の原因を多面的に調査した結果,音の強さに対応する心理物理量(ラウドネス)に関連するらしいことが分かった。この結果は,韻律知覚モデルの構築において言語固有の学習阻害要因を処理するために役立てる。 オーストラリア音響学会の日本語教育コミュニティの招きでMacquarie大学(Sydney)にて日本語長短音素の知覚的手がかりのテーマで講演し,さらに本補助金を受けて開発した実験用の学習ソフトウェアを紹介した。近年,オーストラリアでは,日本語学習者の数が第二言語学習者の中で1番目あるいは2番目に多いため,豪州各地から多数の関係者が参加し,学習者支援のための基礎理論と実践に関する広範な情報交換を行うことができた。
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