研究概要 |
本計画では,文法化と超越性という人間言語に特有で普遍的な性質に着目して言語の起源と進化について構成論的アプローチを用いた研究を行う.人間言語の普遍的特性の一つである合成性が文化進化を通じて形成される過程において,多義性と汎化学習がどのような役割を担うのかをシミュレーションにより考察した.これは,繰り返し学習という文化進化のひとつの枠組みに関する研究である.繰り返し学習により意味と音の対応関係の体系という言語知識に合成性という構造が生じることが知られている.これは文化進化の一種の普遍法則のようなものであり,言語知識にかかわらずどのような対応関係でもよく,文法獲得にかかわらずどのような汎化学習によっても知識の構造化が生じる.すなわち,繰り返し学習のみでは,言語獲得・運用能力が生じるための特殊性がいかに進化したかを明らかにする言語の起源の研究には迫れないことを明らかにした.言語の起源・進化,そして,文法化や超越性に必要なことは,メタファー的・メトニミー的推論,および,言語的類推であることを本研究で示した. また,この言語の起源と進化の研究から,人工物と人間がコミュニケーションするための設計原理,すなわち,進化的視点からの構成論的設計論を検討した.これは,人間の言語を模倣したものを人工物に載せるのではなく,人工物と人間の相互作用を通じてコミュニケーション可能な言語を進化させるというものである.また,言語によるコミュニケーションを含む社会的知能の発生に関して構成論的シミュレーションを行うためのプラットフォームであるSIGVerseの開発を進めると共に,構成論的シミュレーションの科学的方法論としての意義とSIGVerseの役割を議論した.これらの考察を通じて,言語の起源と進化を構成論的アプローチで研究することで得られる対象的知識と方法論的知識の持つ学術的意義と社会的意義を明らかにしつつある.
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