コンテンツ産業の生産性を経済的定量的に分析するために、統計資料が比較的整備されている日本映画産業を対象とし、生産性に関する唯一の先行研究であるコスト病分析に必要な変数である、製作費、製作費に占める人件費の割合、入場料、興行収入(あるいは配給収入)、入場者数などを、1955年から1970年の期間について収集することができた。分析結果は以下のようになった。 日本映画産業は、データからもコスト病の前提となる労働集約であることが証明できた。1955年から1970年に関する限り、製作費の増加率が物価の増加率より大きくなっており、コスト病にかかっていると解釈できる。この期間には、入場料の上昇ともに需要が減少する傾向がみられるため、日本映画産業はコスト病にかかっていると解釈できるが、需要の減少は入場料よりもテレビ受像器の普及によるもとである可能性も否定できない。 これらの結果からして、第二次世界大戦後から大映が倒産する1971年あたりまで、日本映画産業はコスト病に陥っていたと解釈できる結果が得られた。しかし需要の縮小はテレビ放送の影響が強く、テレビ受像器が世帯の過半数に達していなかった時期にはコスト病ではなかった可能性も強いという解釈も可能である 1971年あたりに市場の適正化など産業構造に何らかの変化がもたらされたと考えられる。1970年代以降、入場者数の減少の速度は鈍ったものの、わずかながらも減り続けているにもかかわらず、配給収入と興行収入は上昇する。 本年度は、コスト病の分析方法で映画産業の生産性の研究を行ったが、実演芸術のコスト病の枠組みそのままを当てはめて複製芸術を分析して結果を導き出することには無理があるようという結論が得られた。再分析を行い、新しい分析枠組みを構築中である。本研究は、わが国のコンテンツ産業の定量的研究の先鞭をつけたものである。
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