前年度集積したコスト病に必要なデータを充実させるために、継続して日米の映画産業の統計収集を行い、絶版になり入手困難なThe Film Daily Year Book of Motion PicturesとInternational Motion Picture Almanacを数年分を除き入手することができ、米国に関してはほぼデータを網羅することが可能になった。日本映画界では例外的に制作費が継続的に公表されている黒澤明作品についても個別データを収集し、それらのデータについては、2009年秋から2010年春にかけて出版した『大系黒澤明』(全4巻)に発表し、日本国内で歴史的な成功を収めた作品と映画人への経済的な報償の関係も、コスト病の観点から事例研究として分析を行っている。さらにアニメーションについても分析するために、一般社団法人日本アニメーター・演出協会と協力して、わが国初めてのアニメーターに関する大規模実態調査を行い、700名を越えるアニメーターから回答を回収することができた。本調査からコスト病に関する研究で不可欠な賃金のデータを収集ことができ、調査結果は報告書「アニメーター労働白書2009」として公表した。ただアニメーション制作については制作費のデータが公開が行われていないため、制作費を推計する方法を試行している。実演芸術を分析する過程で導かれたコスト病のフレームワークが複製芸術でも応用可能かどうかについては、引き続き検討している。
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