本年度は、時空間上の稀少生起事象の勃発の兆候を早期かつ正確に検出できる時空間でのスキャン統計量(space-time scan statistic)の開発をおこなった。Space-time scan statisticとしては、すでにKulldorff (2001)、Takahashi et al. (2008)らが提案した方法が存在するが、これらで同定されるMost Likely Clusterは空間スキャン統計量で定義されるhot-spot clusterを時空間に単純に拡張したもので、「局所的な地域において徐々に時間的かつ空間的に拡大していく勃発」を正確には同定することはできない。また、稀少生起事象のモニタリングに際して、その事象の発現確率分布にポアッソン分布を仮定しているが、現実にはポアッソン分布のバラツキを超えた過分散が観測されることが少なくない。したがって、本研究においては、これらの問題点を考慮したoutbreak modelを内臓したspace-time scan statisticの開発を目指し、期待通りの性能を有するscan statisticの開発ができた。この研究成果は南アフリカのダーバンで開催された第57回国際統計学会の招待講演で発表するとともに、雑誌Biometricsに投稿した。また、これまでの研究成果の一部をまとめて、米国の出版社SpringerからStatistical Methods for Disease clusteringという専門書を出版した。
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