今年度は、昨年度の「時空間上の稀少生起事象の勃発の兆候を早期かつ正確に検出できる時空間でのスキャン統計量(space-time scan statistic)に必要な機能の理論的かつシミュレーションによる検討結果」に基づいて、次にあげる既存の方法の3種類の問題点の改善方法を検討した。(1)時空間スキャン統計量としては、すでにKulldorff(2001)、Takahashi et al.(2008)らが提案した方法が存在するが、これらの方法で同定されるMost Likely Clusterは空間スキャン統計量で定義されるhot-spot clusterを時空間に単純に拡張したもので、「局所的な地域において徐々に時間的かつ空間的に拡大していく勃発」を正確には同定することはできない、(2)これまでに提案された方法では、観測された事象の数が通常の頻度なのか異常な大きさなのかを判定する帰無仮説の下での期待頻度の計算方法が不適切、(3)ボアッソン分布のバラツキを超えた過分散を適切に処理できない。これら3点の改善を行うとともに、単純なhot-spot clusterモデルに替わって、新しい「徐々に時間的かつ空間的に拡大する」outbreak modelを開発した。その実データに基づく性能評価として、北九州市の小学校を対象とした、欠席児童数のサーベイランスデータ(2006年)を利用し、実時空間(地域)のある領域(時点、地域)に想定されるインフルエンザの勃発・流行の早期発見に適用した。その結果、これまでの方法よりインフルエンザの勃発状況をより正確に検出できることが確認された。これらの成果は、この分野の著名雑誌Biometricsに発表した。
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