1、研究計画の概要 生物の記憶・学習・想起能力の進化的・系統分類学的発達度合いを実験的に調べます。標準試験として周期的環境変動の複雑さに対する記憶能力を様々な生物種で調べます。それらを統一的に説明するシンプルかつ本質的な数理モデルを構成します。粘菌の事例で成功した振動子集団モデルを基本的枠組みとして用います。知的能力の進化を数理モデルの分岐構造として理解できるかどうか検討いたします。また、時間のみならず空間も含んだ環境変動に対する、生物の適応能力についても総合的に検討します。 2、これまでの実績 (1)単細胞生物の粘菌とアカゾウリムシという2つの生物種で周期的イベントに対する時間記憶能があることがわかりました。これは、この時間記憶能が、種固有のものでなく一般的に見られる可能性を示しています。 (2)時間記憶能は、温度・湿度記憶のみならず、光の刺激に対しても見られることがわかりました。これは、外界信号を受容する過程の背後に、情報処理を担う過程が存在することを示唆しています。 (3)ヒトでは同様の時間記憶能があると予想されていますが、他の多細胞生物として、オジギソウ、プラナリア、ヒドラで実験を行っていますが、まだ明確な結論に至ってはいません。時間記憶能は、ゆらぎの大きい反応であることが次第にわかってきまして、十分な統計処理を必要としています。 (4)時間記憶能をもたらす動力学的機構に関して、基本的な枠組みで構成した振動子集団モデルを提案しました。このモデルを再検討して、実験結果と比較しつつあります。特に、ゆらぎの大きい反応性や振る舞いの多様性に焦点をあてています。 (5)時間空間変動に対する適応能の評価として、鉄道網に似た多機能性ネットワークを作る能力を発見しました。このことから、動的最適化問題を解く能力があることがわかってきました。
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