本年度は、細胞内の酸化ストレス防御機構に関与するKeap1タンパク質の構造解析を行い、その機能解明を進めた。この解析では、透過型電子顕微鏡によりKeap1タンパク質の画像を撮像し、この画像情報より、これまで当研究室で開発した画像情報の解析処理技術を総動員することで、完全な非対称タンパク質であるKeap1の3次元構造を解明した。この結果は、アメリカの学術誌である米国科学アカデミー紀要に掲載された。さらに本年度は、画像情報の解析処理速度の向上を目指し、4コアのCPUを持つ画像情報処理用ワークステーションを3台購入し、並列分散処理化を行った。これにより、実験画像の解析処理速度が向上し、Keap1の解析の期間短縮に結びついた。これに加えて、複数のステートを有するタンパク質画像の新たな解析方法として、シミュレーティッドアニーリングを用いて、各平均画像にそれぞれのステートを割り当てる方法を開発した。この方法を用いることで、自動的に様々な構造変化のクラス平均画像が生成されるため、この平均画像よりそれぞれの3次元構造を独立に求めることが可能となる。これと平行して、走査型電子顕微鏡を用いた新たな生物サンプルの観察手法を開発した。この目的のためにマグネトロンスパッタ装置の購入を行い、生物試料による実験を進めた。この方法では、水溶液中の生物サンプルを染色する事無く観察することが可能である。そのため、水溶液中での生物サンプルの構造変化を捉えることも将来的には可能になると予想される。さらに、電子線によるダメージも極めて少なく、画像のコントラストも高くできるため、今後の生物観察手法として極めて有望であると考えられる。こうした結果は2本の査読有り学術誌に掲載された。
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